追悼  松岡 清司
1997/6 パキスタン レディースフィンガーにて亡くなる
 

しゅうぞう。松岡清司という立派な名前がありながら、何故か親しみを込めてそう呼んでしまう。とてもいい奴だった。

 しゅうぞうを始めて知ったのは、クラウン峰登山隊の準備の時だったはずだが、その時の印象はほとんどない。それよりも、クラウン峰登山隊の時のことを今でも鮮明に覚えている。しゅうぞうたち本隊がBCに到着したとき、私は先発隊で先に中国へ来ており、ちょうどABCからBCへ下っているときだった。その時、本隊の中でキャラバンを終えてBCに到着後さっそく上に上がってきてくれたのが、ウルタル2でいっしょだった山崎としゅうぞうの2人だったのだ。特に何を話したわけではなかったが、私も少しだけ人恋しかったのだろう、すぐにやってきてくれて嬉しかったことをよく覚えている。登山中はあまりチームを組むこともなく思い出も少ないが、もう一つ忘れられないことは登山終了後にある。私はクラウン峰も十分満足いくものだったが、どうせならもう1つ登っていこうということで、カシュガルに戻ったその足でムスターグアタを一気に登る計画を立てた。隊のメンバーに声をかけたが、その中でただ一人、しゅうぞうだけが私の期待に応えてくれたのだ。2人してABCから食料などを荷下げし、登山許可もカシュガル登山協会の人から巧くとれる手はずを整え、後は登るだけであった。しかし、私がサルポラッゴ氷河を偵察に行った時にひどい捻挫をしてしまったため、この計画をあきらめざるを得なくなってしまった。その時のしゅうぞうの悔しそうな顔、何度も何度も本当に登れないのか聞かれ、私も非常に申し訳ない思いをした。しゅうぞうはムスターグアタでなくても、山に登りたくて仕方がなかったのだろう。山に対するひたむきな思い、結局最後の最後までこの思いがあったのだろう。

 帰国してからのしゅうぞうはミラクルだった。フリークライミングも、クライミングもすぐに上達していった。時には私がしゅうぞうから指導してもらうこともあったが、全く嫌な気持ちが起こらない、素直に聞くことができた。それもしゅうぞうの山登りに対する集中力、熱意、ひたむきさがあったからであろう。

 

 最後にしゅうぞうにあったのは、私がK2へ山登りに出発する時に見送りに来てくれたJR名古屋駅であった。しゅうぞうは私に特上のプレゼントを渡してくれた。赤いビリビリのデイパックに入った50枚以上のカラビナ。しゅうぞうがレディースフィンガーで使うためのカラビナだ。更にポーターレッジもプレゼントしたがったが、それはさすがに丁重にお断りした。私もフルザックに遠征樽とこれ以上持ちきれない状態であったが、しゅうぞうには何故か協力してやりたいと思わせるものがあるのだ。しゅうぞうらしい?見送りだった。

 しゅうぞうの死を知ったのは、これから頂上へのアタックをかけようとするK2のC4であった。下のキャンプから何か重要な話が届いているとのこと。そこで無線機から出てきた始めの一言、「松岡君が......」 それだけで十分だった。同じパキスタンの、もしかしたらここから見えるかもしれない場所にしゅうぞうが埋まっている。こんな所で山を登っている場合じゃない、すぐにでも掘り出しに行かねば。同時に感情が加速をつけて私の涙になった。

 K2の頂上でも感極まってしまった。本当なら登頂を素直に喜ぶだけの場なのに、徳島さんの写真、山崎の遺灰、そして突然加わってしまったしゅうぞうの死という現実。それもクラウン峰を、更にはるかウルタル2、レディースフィンガーを望む場所で。

 

 しゅうぞうのことを書かなければいけないのだけれど、どうしても徳島さん、山崎君、そして松岡君は分けて考えることができない。3人とも私にとって非常に関係深いと思っていた人たちだからだ。非常に大きな影響を受けた人たちでもあった。この死をどう受けとめていいのか、このつながりを。

 今年いただいたSさんの年賀状に「やるせなさ」という表現があった。本当にそんな心境だ。彼らの死を誰にあたることもできない。だからこそ余計につらい。山登りをやっていたから死んでしまった?。いや違う。山登りをやらなかったら死ななかったか?。それは分からないが、充実した人生ではなかっただろう。

 

 今でも時々「ウルタル2 さくっと登ってきます」の本を読み返す。なかなか文章を書かないしゅうぞうが、ウルタル2という山を通して、山崎という人を通して、自分の生きている意味、人生について素直に書いた文章が描かれている。この本を読み返す度に、ますますしゅうぞうの死が現実のものであったのだなと実感され、どうしようもない気持ちになってくる。本当にいい奴を亡くしてしまった。しゅうぞうさようなら。

(「カラコルムに消えた若き星」 松岡清司君 追悼号の原稿)

 

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鈴木幹夫 s-mikio@mx.biwa.ne.jp